スペインは地域ごとに自然環境が異なり、人びとが歴史のなかで創りあげた景観や暮らし方も大きく異なっている。「情熱の国」という言葉で一括りにすることはできないのだ。
本シリーズの(III)では、多様性をはらんだ中世・近世社会のうえに築かれたスペイン近現代(19世初め~21世紀初め)の時代を概観する。
独立戦争を経て法制度的には国民国家を成立させたスペインだが、19世紀を通じて革命と反革命の時代を経験した。やがて第一共和政が実現したが短命に終わり、寡頭支配な王政復古体制が誕生した。しかし国家と諸地域の関係は先送りされたにすぎず、資本・労働関係の緊張が高まるなかで、プリモ・デ・リベーラの独裁に帰結した。だがそれも短命に終わり、新たな希望をもたらすはずの第二共和政は混乱をきわめ、血みどろのスペイン内戦が勃発した。
内戦に勝利したフランコ独裁体制はナショナル・カトリシズムを標榜し、労働者や地域からの異論を上から抑え込み「経済の奇跡」を実現させたが、その抑圧は限界を露呈した。その後、スペインは民主化を進展させたが、様々な社会・地域の諸問題を解決するには自治州国家体制では不十分であった。21世紀に入ったいま、多言語多文化を特徴とする社会を基盤としつつ、どのような国家と社会の在り方を築いていくか、スペインの模索は続いている。
