文化プログラム

金栗アギーレ 歩写真展『パンドラ』

金栗アギーレ 歩写真展『パンドラ』 Ayumi Aguirre Kanakuri

イルン(スペイン・バスク)と日本のあいだで育ったアユミ・アギーレ・カナクリは、文化や視点のはざまを自在に行き来する。 彼の作品に明確な境界はない。あるのは、経験・記憶・感性が響き合う静かな空間である。 写真展『パンドラ』は、その空間を私たちの前に開き、親密さと広がり、力強さをあわせもつ世界へと招く。
展示は三部構成:
【第1部】2018年から2019年にかけて制作された、自伝的な要素をもつカラー写真のシリーズ。 家族のポートレートや食卓を囲む風景、静かな自然の情景が、イルンと福岡での日常の断片を形づくる。 スペインと日本を対比させるのではなく、親しみと愛情の気配によってふたつの世界を結びつける。 地理を超えた“つながり”のヴィジュアル・ダイアリーと言える。
【第2部】《pre-post》(2018年)は、モノクロのシリーズ。 トーンは深まり、光は曖昧さを帯び、映像はより謎めいた性質をまとっていく。 観る者を、夢と現実のはざま、過去と未来のあわい、存在と記憶の境界を漂う世界へと誘う。
【第3部】アギーレ・カナクリが共同で創設したアート・コレクティブ兼ジン《Shibori 2.8》(2020年〜現在)の作品を紹介する。 日本語の“絞り”に由来するタイトルは、カメラのレンズを最大限に開放することを意味し、世界をより広い視野で見つめ、より多くの光を取り入れるという姿勢を示している。グループの宣言——「“料理”はすでに目の前にある。大切なのは、何を選ぶかではなく、どう味わい、どう語るか。現実を自分の感性で“料理”し、そこから新しい物語を生み出す。」——は、その精神と理念を象徴している。

主催