幽玄なる美の世界-山本正文と詩人たち
この度、南アルプス市立美術館とインスティトゥト・セルバンテス東京は、幽玄なる美の世界
「山本正文と詩人たち」展を開催致します。
山本正文氏は、1947年に山梨県中巨摩郡櫛形町(現 南アルプス市)に生まれ、千葉工業大
学で建築を学んだ後、1970年の卒業と同時に渡仏すると、その翌年にはバルセロナ工芸応用
美術学校版画科で、主にリトグラフとエッチングを学びました。
その後、複数の版画工房で経験を積み、1979年からは自ら版画工房を経営し、カタルーニャ
の前衛グループ『ダウ・アル・セット』のメンバーや、戦後の第2世代とも言われるラフォルス・カ
サマダ、ジョアン・エルナデス・ピジュアンなど、世界で活躍する前衛画家や彫刻家たちと版
画制作を通して親交を深め、バルセロナの現代版画界に大きな貢献と影響を与えてきました。
彼の工房での活動は、作品と共に高い評価を得ながら、1988年のサン・フェルナンド王立
アカデミー版画美術館をはじめ、1992年にはメキシコ国立版画美術館での回顧展、1997年に
は郷里の櫛形町立春仙美術館(現 南アルプス市立美術館)さらに2007年には山梨県立美術館
において特別展が開催されるなど、世界から注目される版画家へと歩みを進めていきます。
その一方で、1980年代初頭から詩画集の制作にも力を注ぐようになると、アルフレッド・シル
ヴァ・エストラーダとの詩画集の刊行を機に、その後もヴァエ・ゴデル、ミシェル・ビュトール、
イヴ・ボヌフォワ、ルイス・ガルシア・モンテロ、アントニオ・ガモネダ、マリア・サンブラーノ
などスペインをはじめ、西ヨーロッパや中南米を代表する著名な詩人や、鈴村和成、井上康明
といった日本の詩人又は俳人などと次々と詩画集を制作し発表してきました。これらの詩画集は、
いずれも構想から装丁までを山本氏自らが行い、オリジナリティー豊かで詩画集の概念を超え
た、美しい芸術本となっています。
本展では、これまでに制作された全28冊を超える詩画集を中心に、彼の50年余にわたる
創作活動の全貌を紹介致します。
メディアが錯綜し現代社会がますます複雑化する今日、版画家と詩人の魂の交感は一つの
心の拠り所にもなって、彼の描く儚くも美しい微妙な色彩の変化と共に、人々を幽玄なる美の
世界へと誘ってくれることでしょう。